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『連合赤軍物語 紅炎』 山平重樹

これまでで、もっとも包括的で実証的な著作

 山平さんの本がようやく出版された。
 一昨年から一年余に亘って「週刊アサヒ芸能」に連載された労作である。
 連載が始まる以前から、山平さんから残す会にコンタクトがあり、会のメンバーは個々に協力した。

 連載中から、多くの関係者に精力的にインタビューを行い、広く文献を渉猟した成果が誌面に反映しており、単行本としてまとめられるのを楽しみにしていた。
 果たして、これまでに連合赤軍について書かれたどの本よりも実証的で包括的な著作となった。

 山平さんは学生時代、日学同の委員長をしていたという。日学同といえば、全共闘の対極にいた右翼の学生組織である。しかし、本書を読んだ人は、このことを知ってきっと意外な感を受けるに違いない。本書のどこにも、偏見や偏頗な視点は感じられないからである。
 そのことの背景は、鈴木邦男さんによる巻末の解説を読むと明らかになる。
 以下、鈴木さんの「解説」を要約して、引用させていただきたい。

 雪野 (2011.02.13)

大きな<歴史>として目の前に甦った連合赤軍事件

鈴木邦男さんの巻末「解説」より、要約・引用

 これほど陰惨で、忌まわしい事件はない。直視するのが怖かった。それが1972年の連合赤軍事件だ。

 ところが、この事件から12年後、少し考えが変わった。84年6月、池袋の文芸座で徹夜討論会が行われた。
 パネラーは、立松和平、高橋伴明、中上健次、前之園紀男、そして僕だ。
 刺激的で、荒れに荒れた討論会だった。

 ……中上健次が吠えた。
 「いまから振り返ってみれば、左翼の運動だといわれてたものが全部右翼にみえる」
 「たとえば連合赤軍なんかは天誅組の一種だったんじゃないかと、横にスライドすればそんなふうに見えちゃうんだ」

 そんな馬鹿なと、そのときは思った。しかし、ずっと頭の底に残っていた。そして少しづつ分かってきた。本当は民族自立で反米闘争を闘うべきだったのだ。それをやったのはむしろ左翼だ。そんなことも気付かなかったのか、と中上に叱られていたのだ。
 僕の受けた衝撃も大きかった。僕らが出来なかったことを彼らがやったのか。連合赤軍は幕末の天誅組だったのか。これは僕らの問題でもある。だったら僕が書くしかない。そう思った。そして多くの関係者に会った。

 ところが思わぬ「敵」がいた。山平重樹氏も着々と狙っていたのだ。文芸座の中上発言に衝撃を受けたという。
 やられた!先を越された! と思った。悔しかった。眠れなかった。

 連載を終わって文庫本の「解説」を頼まれた。おいおい、俺に頼むのかよ、と思った。しかし、全体を読み直し、驚愕した。参った。完敗だと思った。
 膨大な資料を読み、多くの人に会い、霧の中から連合赤軍事件の全体像を僕らに見せてくれた。多くの証言や新資料を駆使し、さらに、それらを超えて、これは「歴史」になっている。

 彼は、右翼や任侠といった命がけの闘いをした人々を多く見、書いてきた。その視線と筆力が、この連合赤軍を書くことに全て投入された。39年を経て、連合赤軍事件は最高の書き手を得たのだ。貴い犠牲者たちへの最高の鎮魂になったと思う。この時代、山平重樹という作家がいてくれてよかった。読者もそう思うだろう。